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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1109号 判決 1962年5月08日

上告人 佐藤ハナ 外一名

被上告人 甲斐明治

右法定代理人親権者 甲斐ヨシコ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人脇鉄一の上告理由について。

認知の訴につき言渡した判決が第三者に対して効力を有することは、人訴三二条一項、一八条一項の明定するところであり、民法七八六条の規定は判決による認知があつた場合には適用がない。原判決の認知の訴についても、上告人らは利害関係人として参加をすることができたわけであるが、原判決のごとく認知の判決がすでに確定した以上は、その効力は上告人等にも及び、上告人らは所論のごとき理由をもつて右認知の効力を争うことをえなくなつたものと言わなければならない。なお、論旨は、違憲をいうが、違憲に名をかりた単なる法令違背の主張に過ぎない。所論は、採用し難い。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

上告代理人脇鉄一の上告理由

原判決は憲法に違背し又は判決に影響を及ぼすこと明な法令の違背がある。

原判決は認知が訴によつてなされた場合その既判力は判決当事者外にも無制限に及ぶものとして上告人等の主張を退けておる、しかしながら判決の既判力は当該対立当事者以外に及ばないことが憲法に於ける個人の権利擁護の規定(第一一条、第一三条、第三二条)より出づる大原則である、故に他の公益上の理由に基くこの原則の適用排除の場合に於ては特に之を法律に明記しているのである、この理由に出づると考えられる人事に関する裁判に於て例外的既判力の拡張が見られる、而してこの例外は人事訴訟法第一八条所定の婚姻の無効若くは取消、離婚又はその取消事件の判決の場合(何れも第三者に対してもその効力を有するものと規定されておる)であり更に同条が同法第三二条によつて認知の訴に準用される結果本件の場合に付て既判力の例外的拡張が認められるるものと解せられる虞がないとしないしかしながら「準用せられる訴は何れも一旦成立した身分関係を対象とする訴であつて本件の如く身分関係そのものを成立せしむる訴ではない、即ち原審が判決の確定によつて第三者に対しても既判力が及ぶとした認知の訴に対する判決は準用せられる訴に対する判決の中に対比すべきものが存しないのである殊に認知に関しては特に民法第七八六条に於て子その他の利害関係人は認知に対して反対の事実を主張することができると規定されており、婚姻に関しては全然かかる規定が存しないことから見て彼我の間には自ら異るものがあると謂わねばならないのであつて、従つて右の「子その他の利害関係人」に対しては既判力が及ばないと解しなければならない、抑も親子関係の如く自然の事実の存否は本来意思表示乃至は裁判によつては確定し難い性質のものであるが、しかも一定条件の下に終局的安定を与えなければならない、しかも利害の及ぼすところ大であるが故に右の民法の規定を設けこの条件の下に或限度に於ける既判力を認めたものであると解しなければならない。

今死亡者の父に対する認知の訴に付て見るのに利害関係人は訴の提起判決の結果等に付て全然関知する機会が与えられていないのであつて、しかし全然救済の途が存しないとすれば、その害の及ぶところ恐るべきものがあるであろう。

原判は実に民法第七六条の存在理由を著しく減殺し既判力の限界を無制限に宣言したものであつて法令の解釈を誤まり憲法の人権擁護の宣言に反するものであつて取消さるべきものであると考えられる。

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